我々が最近(2020年以降)行っている材料インフォマティクス研究の成果を紹介しています。
目次
材料インフォマティクス(MI)は、膨大な材料データから有用なパターンや相関を抽出し、材料開発を加速する強力な手法として発展してきました。しかし、多くの MI 研究は相関解析に基づく “予測” に重点を置いており、「材料特性がなぜ変化するのか」という因果メカニズムの理解には十分に踏み込めていません。材料設計の指針をより確かなものにするためには、相関ではなく因果関係を捉えることが不可欠です。近年、因果推論・因果探索の手法を材料科学に応用することで、従来の機械学習では見えなかった本質的支配因子を抽出し、物性発現のメカニズムに新たな洞察を与える取り組みが注目されつつあります。
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全固体電池の高性能化には高いイオン伝導性をもつ固体電解質が必要であり、材料インフォマティクス(MI)も利用されてきたが、その多くは相関解析に留まっていた。本研究では、オリビン型 LiMXO₄ の Li イオン伝導性に関わる記述子について、因果探索手法 LiNGAM を用いて因果関係を明確化した。第一原理計算データと過去の回帰分析結果を組み合わせることで、イオン伝導性を本質的に支配する要因を抽出した。組成→結晶構造→イオン伝導性の因果の階層構造を抽出し、材料設計のための具体的な設計指針を示した。
論文へのリンク: DOI: 10.1021/acs.jpcc.4c06131 (学生第1著者 2025年)

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濃厚電解液の電位シフトの起源を明らかにするため、LiFSI 系 75 種の電解液に対して 132 種の分子・構造記述子を用い、LiNGAM による因果解析を行った。遺伝的アルゴリズムで記述子を減らしたうえで解析した結果、Li⁺–アニオンの空間分布(特に長距離 NDF)が電位に直接的な因果影響を持つことが判明し、分子固有の性質には因果関係が見られなかった。これは、高濃度電解液では液相マーデルング相互作用が電位決定の主要因であるという理論モデルを支持し、因果発見手法が電気化学現象の本質的メカニズム解明に有用であることを示した。 論文へのリンク: DOI: 10.1021/acs.jpcc.4c06131 (学生第1著者 2025年)
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深層学習を使うと、実験やシミュレーションだけでは見えにくい“材料の隠れた特徴”をデータから読み取り、新しい物質や最適な条件をぐっと効率よく探せるようになります。多くの組成や構造を一気に試すことができるので、材料開発のスピードが飛躍的にアップします。データと材料科学を組み合わせることで、これまでの研究の進め方そのものを変えていけるのが魅力です。これらの多くの研究成果は、材料化学を専門にする学生が、実験・計算に加えてコーディングまで自家製で進めて研究を推進して得られたものです。
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高速度で計算できる力場(FF)は大規模材料モデルの計算に広く使われているが,精度はパラメータ選択に強く依存し,多元素系では10 次元以上の膨大な探索空間となるため合理的な決定が困難である。そこで著者らは既報のメタヒューリスティクス法に加え,本研究で条件付き変分オートエンコーダ(CVAE)を用いて FF パラメータを効率的に最適化する手法を検討した。CVAE によりパラメータ空間を低次元化・確率的に分布させることで,Li₇PS₆ の 11 個の FF パラメータ最適化に成功した。得られた FF は第一原理計算と高い整合性を示し,少数の初期サンプルからでも有効な力場生成が可能であることが確認された。
論文へのリンク:DOI: 10.1080/27660400.2023.2253713 (学生第1著者 2023年)

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新規機能材料の発見に伴い既存材料の性能向上も求められるが,従来の材料探索は熟練研究者の経験や勘に大きく依存してきた。材料インフォマティクス(MI)は体系的・効率的な探索を可能にする一方,既存データベースの枠を超えた新材料発見は依然困難である。本研究では,MI と研究者の直観を組み合わせるため,組成と構造に基づいて既知材料を配置する「材料マップ」をオートエンコーダで構築した。708 種の酸化リチウム材料を対象に,伝導度と関連する移動エネルギー(ME)の分布を可視化し,新規リチウムイオン伝導材料の探索を支援できることを示した。
論文へのリンク:DOI: 10.1038/s41598-023-43921-1(学生第1著者 2023年)

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