最近(2020年以降)行っている材料シミュレーション(計算)研究の成果を紹介しています。<2020年以前の研究例 参照先

目次

材料シミュレーションを活用した研究

第一原理計算や機械学習ポテンシャルを活用した材料シミュレーションにより、電気化学デバイスの電極や固体電解質中のイオン拡散を原子レベルで解明しています。また電極/電解質界面における、イオン交換反応機構・空間電荷層形成・分解反応を統合的に理解し、安全で高性能な次世代蓄電デバイス設計へとつなげています。

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ニューラルネットワークポテンシャル(NNP)を活用したセラミックス材料のイオン伝導性(拡散能)の評価

全固体電池(ASSB)や固体酸化物型燃料電池(SOFC)のエネルギー変換デバイスの部材には高いイオン伝導性が求められます。我々は、DFT計算に匹敵する精度と圧倒的に高速なグラフ・ニューラルネットワーク(GNN)系機械学習ポテンシャルを用いた分子動力学法を実施し、イオンの拡散能の定量的評価と機構解析に役立てています。

代表的な論文へのリンク:

酸化物イオン伝導 DOI: 10.1021/acs.jpcc.4c03617 (学生第1著者, 国際共著 2024年)

Mgイオン伝導 DOI: 10.1007/s10008-024-05862-1 (学生第1著者, 2024年)

Li/Naイオン伝導 DOI: 10.1039/D5SC03394B (2025年)

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リチウムイオン電池の正極/電解液界面における分解反応

本研究では、汎用ニューラルネットワークポテンシャル(UNNP)を用いた分子動力学(MD)計算により、高電圧充電時の正極/電解液界面反応を原子レベルで解析した。LixNiO₂ の脱リチウム状態において、電解液であるエチレンカーボネートが分解し、CO₂および O₂ が発生する反応が確認された。これらのガス発生は、NiO₂ 表面における酸素不安定化と強く関連していることが示唆された。機械学習ポテンシャルにより、約1700原子規模の固液界面反応を高精度かつ長時間で追跡可能であることを実証した。本手法は、高電圧作動電池における副反応の理解と材料設計に有効な解析基盤を提供する。

論文へのリンク: DOI: 10.1021/acsami.4c03866(学生第1著者, 2024年)

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全固体電池のリチウム/ガーネット型固体電解質界面におけるイオン交換

本研究では、汎用ニューラルネットワークポテンシャル(UNNP)を用いた分子動力学計算により、LLZ/Li 界面における Li イオン交換挙動を原子レベルで解析した。その結果、Li イオンが LLZ/Li 界面を横断して移動し、界面近傍約 1 nm の領域に過剰 Li イオンが蓄積する空間電荷層の形成が確認された。さらに、UNNP-MD 構造に基づく第一原理計算から、界面近傍でのバンドベンディングと Li 金属還元の抑制が示された。これらの結果は、LLZ/Li 界面における電気化学的安定性の起源を電子構造の観点から明らかにしている。

論文へのリンク: DOI: 10.1038/s43246-024-00595-0(学生第1著者, 2024年)

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塩化物材料におけるリチウムイオン伝導性

本研究では、塩化物系固体電解質 Li₃InCl₆(LIC)および Nb⁵⁺・Zr⁴⁺ ドープ系材料の Li イオン伝導性を、実験と第一原理分子動力学の両面から評価した。Nb⁵⁺または Zr⁴⁺ ドープにより Li 空孔が増加し、それに伴って Li イオン伝導度が向上することが実験・計算の両方で確認された。特に Nb⁵⁺ ドープは 60 ℃ において Zr⁴⁺ ドープよりも大きな伝導度向上を示した。計算結果から、高原子価ドープによる伝導性向上は「空孔トラップ効果」と「秩序―無秩序相転移温度の低下」の 2 因子に支配されることが示された。とくに後者の効果は Nb⁵⁺ ドープで顕著であり、333 K における高い実験伝導度を理論的に裏付けている。

論文へのリンク: DOI: 10.1038/s43246-024-00595-0(社会人博士課程学生 第1著者, 2023年)

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ナトリウム金属/硫化物固体電解質界面の分解反応

本研究では、ニューラルネットワークポテンシャル分子動力学と機械学習解析により Na₃PS₄ 固体電解質と Na 金属負極の界面反応を解析した。その結果、Na の挿入により PS₄ 基は PS₃、PS₂、PS、さらにリン化物・硫化物へと段階的に分解することが明らかとなった。この分解反応は熱力学的には有利であるものの、PS₃ 中間体における立体障害により反応は速度論的に抑制されることが示された。機械学習を用いた解析により、元素種ごとの反応性の可視化が可能であることも示された。形成された SEI 層は高い化学安定性と低い電子伝導性を示し、Na 金属電極に対して安定な固体電解質設計の新たな指針を与えている。

論文へのリンク:  DOI: 10.1021/acs.jpcc.3c02379(来日交換留学生 第1著者, 2023年)

DOI: 10.1002/cssc.202300676(来日交換留学生 第1著者, 2023年)

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Bond Valence力場による固体電解質粒界のイオン輸送

本研究では、NASICON 型固体電解質 LiZr₂(PO₄)₃(LZP)における粒界(GB)での Li イオン伝導機構を、第一原理由来の古典力場(NAP)を用いた分子動力学計算により解析した。異なるミラー指数および終端をもつ 32 種類の粒界モデルを構築し、粒界ごとの Li イオン伝導度を評価した。その結果、一部の粒界構造ではバルクを上回る高い Li イオン伝導性が発現することが示された。さらに、界面構造に基づく機械学習解析により、Li の 6b サイト周辺の空隙サイズが粒界伝導性を支配する重要因子であることが明らかになった。

論文へのリンク:  DOI: 10.1021/acs.jpcc.1c07314(学生第1著者, 2021年)

DOI: 10.1016/j.actamat.2021.117596 (共同研究, 2022年)

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